
信州大学では
ベラルーシ共和国の
ゴメリ州立病院との間で遠隔医療による小児白血病の診療支援を行っている。当地では、1986年の
チェルノブイリ原子力発電所の爆発事故によって多数の人々が被爆し、特に小児における甲状腺ガンや白血病が多発している。信州大学病院は
日本チェルノブイリ連帯基金と協力して、1991年から医薬品を始め医師派遣による国際協力を開始した。
ゴメリ州立病院は
ベラルーシ共和国の南東の
ゴメリ市にあり、1500床を有する基幹病院である。1997年には小児科専門医の短期訪問による自家末梢血幹細胞移植を実施した。しかし、専門医の訪問は7-10日の短期間であるうえに同国の通信事情により、移植前後のケアあるいは長時間を必要とする治療に対応できない。そこで通信衛星を利用した遠隔医療の導入を計画、1998年7月に通信・放送機構からの助成金を獲得し、遠隔医療が可能になり、1998年10月、
ゴメリ市の同意を得て、通信路を開設した。
ゴメリ州立病院小児血液科と信州大学小児科は
インマルサット国際衛星によって結ばれている。
ゴメリ州立病院側には2種類の
インマルサットB系衛星通信装置を設置、日本側では国際ISDNを使用している。
ゴメリ州立病院からの通信はヨーロッパの中継局を経由して日本の山口中継局を経て信州大学に送られる。これによって移植前後の処置や経過を映像で追跡することが可能になった。この映像は双方から遠隔操作によってズーム、フォーカスなどが可能である。またテレビ会議を利用することで現地医師団との間で随時カンファレンスを行うこともできる。
1997年から現地の医師による骨髄移植を導入しました。ただ、
ベラルーシは経済状態が思わしくなく、医療を取りまく条件が悪いので不安でした。しかし、私たちには手術後の患者さんの状況は把握できません。急変する患者さんへの対応にも不安があります。どの患者さんを適応にするのかも、その患者さんを私たちが最初から見ている訳ではないので、適切に選ばれているのかどうか判断できません。これらの問題を解決するために、遠隔医療を取り入れたのです。
大いに有効だと考えています。たとえば、遠隔医療を利用することで、患者さんを診断するところから私たちも参加することができます。モニター画面で血液の染色標本を見ることで、どのタイプの白血病であるのかを判断することができ、正確な治療を施すことが可能になります。また、肝臓や腎臓のエコーもおよそ読むことができる。これらのデータをもとに、現地の医師たちと再発の可能性などの予後を話し合うこともできます。わかることはこのようなデータだけではありません。モニター画面を通して実際に患者さんの様子を見ることができる。その表情、立ち居振る舞い、寝たきりなのかどうかなどは、画面を見れば一目瞭然。つまり、患者さんのおよその状態が把握可能ということです。これが重要なのです。
そんななかでもいちばん大きいことは、われわれが患者さんの家族の相談に直接乗ることができるということです。自分のお子さんに骨髄移植手術を受けさせるという決断を下すことは不安なものですが、移植前にご家族と話すことで、この不安を軽減することができます。われわれには経験があります。経験をもつわれわれがご家族と話をする。話し合っていくとお母さんの顔がなごむ。不安がなくなったということです。つまり、お互いの顔を見ながら話し合うことが重要なのです。幸い、患者さんの生存率も2年で8割が死亡していたものが、現在では2割以下へと下がっています。
さらに通信衛星を使った遠隔医療を行っているということによる波及効果もあります。
ホジキン病という一種のガンがあります。この病気は全身に広がるとその生存率は50パーセント以下。治療のためには抗ガン剤や放射線治療が必要ですが、
ベラルーシでは経済状態が悪いためにこれらの治療費は非常に高価で、
ホジキン病が全身に広がってしまうと、事実上死の宣告のようなものでした。ところが、
ゴメリ州立病院では日本と衛星通信を使って医療を行っているという評判を聞きつけてやってくる。遠隔医療が結果的に患者さんに希望を与えることになっているのです。
大きな問題点は現在のところありません。ただ、通信費が高い。ですから、通信にあまり時間をかけるわけにはいきませんので、要領よく行わねばなりません。また、遠隔医療だからといって日本にいてすべてを行うことは無理です。新しく遠隔医療を行う場合には、必ず自分で現地に足を運んで、目で見て問題点を把握することが大切です。それは必ずしも病院だけの問題ではありません。何があって何がないのか。
遠隔医療の応用範囲は広いと思います。肝臓や腎臓のエコーは現在でもおよそは読むことができますから、アンテナなどをもっと小型化すれば病院でなくてもそのデータを送ることができるようになるでしょう。さらに聴診器で拾った心音を電気的に送ることができるようになれば、医師がその場にいなくても診察が可能になります。最近では船医の数が減っていると聞きますが、このシステムを使えば、船の上での病気などにも対応できるでしょう。
日本や欧米諸国では医療は進歩しています。しかし、経済状態の悪い地域や国では、医師は、たとえば下痢といった日本では考えられないような病気への対応で手一杯で、血液の病気などに対する知識があまりないのが現実です。知識のない病気に対しては、どのような治療を施せばよいのかがわからない。遠隔医療を有効に利用すれば、そのような地域や国の医師をサポートすることができるでしょう。